ぷっくり丸と一緒

ぷっくり丸と一緒~外科系女医の試行錯誤の日々~

仕事と家事と育児を欲張る形成外科医

こどものやけど

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毎日のスケジュールが決まってきて特に書くことがなくなってきたので、何も書くことがない日は本業を生かした内容を書いてみようと思います。

 

冬になるとやけどの患者さんが増えてきます。やけどといっても色々あるので、まずはこどものやけどについて書いてみます。

 

どうしてやけどをしたのか

子供のやけどは多くは室内で起こります。多いのは、ラーメンやお味噌汁をこぼした、です。自分でご飯が食べられるくらいの年齢になるとこれが多いです。それより小さな子になると、触れる位置に熱いものが置いてあった、というのがほとんどの原因です。ラーメンをこぼすのはある程度防ぎようがないのですが(大人もこぼすことがあるし)、それより小さい子のやけどは気を付けていれば防げたものも多く、また皮膚が薄いこと、やけどをする位置に問題があることが多く治療に時間がかかることがあります。

例えば、

・床に煮物が入った鍋を置いていた

・手が届くところに炊飯器があった(蒸気が出る穴が危険)

・電気ポットは上の方にあるがコンセントが下にありコードに手が届いた

・テーブルの端にコーヒーを置いていた

などです。

娘が生まれてから本当に実感するのですが、見ているから大丈夫、は不十分です。相手はランダムな動きをするので、ほんのわずかな時間で思いかけないことをします。目は離さないけれど、もし離していたとしても大丈夫、な状況をつくらなければ危ないです。

そして、このころのやけどは、熱いということを理解しておらず手で触るために受傷することが多く、手のひら側にやけどをします。ラーメンがおなかや太ももにかかっても傷跡のことが心配なくらいで済むことが多いですが、手のひらはそうはいきません。やけどがある程度深い場合、治った後に拘縮といって皮膚が固く伸びなくなることがあります。そのため、指がまっすぐ伸ばせない、ひどい場合は指の成長を阻害することがあり、その場合は追加で手術が必要となります。

 

応急処置

やけどをしたらどうするかですが、何よりもまずすぐに冷やします。病院に行く前にです。洗面所やお風呂場に連れて行って水道やシャワーで直接水をじゃぶじゃぶかけます。今後のやけどの深さが深くなるか浅くなるかを左右するのは病院につくまでの時間ではなくどれだけ早く十分冷やしたかで決まります。傷にどんな薬を塗るかよりももっと大切なことです。冷やす時間に決まりはありませんが、何分間か、十分患部が冷たくなるくらい冷やして、そのあと氷水をいれたビニール袋やアイスノンを当てた状態で病院に来てください。ただし火事などで広範囲のやけどを負ったり、熱い空気を吸い込んでいる場合は別です。すぐ救急車を呼んで、冷やせるならそのあと冷やします。

 

治療法、治るまでの期間

やけどには大きく3つの深さがあります。

・1度:日焼けのように赤くなってひりひりするだけ。翌日には引いていることが多い。

・2度:みずぶくれができる。この2度には1~2週間くらいで治る浅い2度と、治るのに時間がかかり手術が必要になることもある深い2度があります。

・3度:水ぶくれができることもあるし、すでに表面の皮膚がはがれてしまっていることもあるけれど、2度と違うのはすでに皮膚が死んでしまっていることです(2度はぎりぎり生きている)。この場合は初見でわかることもあり、小範囲でも手術が必要になることが多いです。

やけどの深さは病院に来た時点である程度決まってしまっていますが、よほど深くない限り、最初の見た目では判断できず、1週間くらいの間で違いが目に見えてわかってくることが多いです。1度のときは何もしなくてもいいですが、2度以上になると傷の処置が必要になります。

水ぶくれは上の皮が天然の絆創膏になるので無理に破らなくてよいですが、あまりに大きいときや、数日たって中の液が濁ってきて感染が疑われるときなどは中の液を抜いたり破ったりします。基本的に傷の管理は、毎日洗う、乾燥しないようにする(そのために軟膏を塗る)、の2点です。抗生物質を処方するかについては医者それぞれのところがありますが、まず最初は必要ないです。軟膏は、それも処方する医者によって違うと思いますが、なんにしろ乾燥しないようにするために塗っていると思ってもらえたらいいです。

被覆材と言って数日変えなくていい絆創膏を使う場合もあり、正しく使えばとても便利なものですが間違えると中で細菌が繁殖して化膿するので、毎日洗う、乾燥させないようにする、がスタンダードでよいと思います。軟膏は使わずに、排水溝にかぶせる穴が開いたビニール袋を使って乾燥しないようにすることもありますが、傷の場所や深さによるので指示があった場合だけ使うようにしてください。洗う水は水道水で十分です。たまに生活が井戸水の方がいるのですが、飲める水であれば問題ありません。水でもぬるま湯でもいいです。アロエを貼ってくる人もいて絶対ダメなわけではなさそうですが(浅い場合は何しても治るので)、おすすめしません。消毒も傷の治りを悪くすることがあるので、医者から言われない限りマキロンなど使わないでください。石鹸もなしで、たくさんの水かぬるま湯でよく洗う、だけでいいです(石鹸はついてもいいですがしみるので)。

洗うのが怖くて数日そのままです、と言って外来に来る方も結構いるのですが、洗わないのが一番怖いです。感染するとやけどは深くなります。特に小さい子供の場合は、小さなやけどでも感染を起こして高熱や発疹がでることがあり(洗っていてもなることもありますが)そうなると入院になってしまいます。どうしても怖いときは毎日病院に行ってください。

 

手術

軟膏で治らない深さのときは皮膚移植が必要になることがあります。軟膏で治っても、最初に書いたようにそのあと拘縮がくると手術が必要になることがあります。

 

一般的なことを色々と書きましたが、これだけやけどのこどもを診療で見ていても、自分の子供でひやりとする場面はあったので、子育て中の方、特に複数子供がいる方は大変ですがお気を付けください。

 

ちなみに最初の画像は傷を治す妖精ナオルンです。形成外科学会公式キャラクターです。そして、5月5日こどもの日はキッズの日→傷の日、だそうです。よろしくお願いします。

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