読書 闇の脳科学
精神疾患の患者の脳にメスを入れるロボトミー手術に引き続き行われた、脳に電極を埋め込む治療法を研究したある医師の記録。
その治療方法がどうというよりも、その医師の周りの人間模様が、今も昔も人間って変わらないんだなぁと興味深く、そして、栄華盛衰、諸行無常感を感じる本でした。
脳に電極を埋め込む、という言葉のインパクトに右往左往する一般の人々、保守的な精神科医との対立、裏切り、そして、確実に意味がある研究を行い、話題の人になっていたのに、最終的になぜか今の精神医学の世界から忘れ去られるという寂しさ。
体に電極を埋め込む実験、と聞くと、容易に倫理的な問題を感じさせ人目をひきますが、そもそも倫理的に許されないような状況下で管理されていた患者たちのこと、この研究が行われなければ、その非倫理的な状況下で死んでいくだけだったということは、問題にされないという人間社会の不完全さを感じました。
騒いだもの勝ち。
根本的には今も同じ。問題が何か、よりも、パッと目を引いたキャッチフレーズが重要視される。
この医師が正しいとか正しくないとかは、時代背景が違っていて議論はできません。
今の倫理とその時の倫理が違うから。そもそもこの本から得た情報量では偏っていて少なすぎます。
でも、色んな思惑が絡んでいたとしても、根底には善の気持ちがあったように感じるのは私が医者だからでしょうか。
電極なんて、いまや脳にも心臓にも脊髄にも、入れる治療があります。
脳科学とは違うところで、なんだか、人間って、つくづく幸せになりにくい生き物だなぁと思うに至った本でした。