頂好食品の月餅
この38年間、私のお菓子の選択肢に、月餅はありませんでした。
母があまり好まなかったのもあり、家で食べることはありませんでしたし、なんとなく、お盆にお墓にお供えする、食べ物ではないような見た目と質感の落雁のようなイメージがありました。
その後料理が好きになり、ある本で、日本人で日本に住んでいるのに、中国が好きすぎて月餅まで手作りする人の話が載っており、お菓子なのに塩味の卵の黄身がごろっと入っているのが不思議なこのお菓子が、卵の黄身、というキーワードと共に頭の片隅に記憶として残りました。
つい先日、出産祝いのお返しに、と知り合いからペニンシュラホテルの月餅をいただいたのが実際の月餅とのファーストコンタクトでした。月餅のその重量感から自分で買って食べるのは躊躇していましたから、いい機会でした。
知識として知っていた、蓮の実のあんと卵の黄身が入っているもの、多分オリジナルの紅茶の香りがするものなどお洒落なもの、いくつかの種類が美しく大きな箱に詰め合わせてあり、そもそもの私の安い落雁と同じカテゴリーにしていた月餅のイメージが崩れたのもこの時でした。
新しい味のものより、オーソドックスな蓮の実あんと黄身入りのものが、長年愛されてきた食べ物の風格を感じて心に残りました。
本当に黄身が入っているんだ!という感動と、蓮の実のあん、って単語としても美しいあんの取り合わせ。食べたことはなかったけれど、親しみの湧く味わい。コーヒーにも合います。
それからなんとなく月餅のことが気になり始めたころ、横浜中華街へ行く機会があり、たくさんの月餅が売られているのを見ましたが、なんだかお土産然としてしゃちほこばっていて手がでず、ぶらぶらしていたところ、他のもの目当てで行った頂好食品というお店で、すごく雑に積まれている月餅を見つけました。
このお店、雑、と言ってしまうのは良くないかもしれませんが、あまり日本的でないかんじで店先に無造作に食べ物が積まれています。でも評判はいいのです。
そもそものお目当てのココナッツもちは、ひとつをお皿にのせると見た目も味も可愛い完璧なお菓子なのに、屋台のヒヨコみたいにぎゅっと金属トレイに盛られて端っこによれている状態で売られています。
月餅は、個包装されてはいますが、棚にざっくり盛られてビニールシートがかけてあります。
見ていると、店員さんがどんな種類があるか教えてくれたので、蓮の実あんと黄身の物を一つ買いました。
翌日切ってみると、以前食べたものより柔らかい。
そして、高級な食べ物では得てして失われがちな、それぞれの具材のコントラストがはっきりとした味がします。
皮はしっかりとした香ばしさがあって、蓮の実あんはあくまで穏やかに甘い。そして黄身がしっかりしょっぱくて動物性のこくを感じます。
手作りの温かみも感じる親しみやすい月餅。
ペニンシュラっぽさは微塵もなく、現地で愛されているものもこういうタイプだろうと想像する味です。
早くも他の味のものも試したい。
多分、近日中に行くことになると思います。